箱根の向こう(6)ポーラ美術館の裏庭<事務所代表 森のfacebookより転載>
※事務所代表 森のfacebookより転載
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ラリック美術館から車で暫く走り、坂道の雑木林を抜けるとポーラ美術館が突然現れる。
雑木林は標高が少し高いのだろうか、正門まで歩く道が肌寒い。
淡い薄紅の山桜が、葉を落とした雑木林に春を告げていた。
「印象派の風景」展が開催されていた。
この美術館は所蔵作品も多く、毎回訪れるのが楽しみだ。
佐伯祐三の「下落合風景」という作品がある。
この美術館の所蔵なのだが、作品を実際に見たことはない。以前訪れた折にミュージアムショップでポストカードを見つけた。
何故だか引かれて購入した。
しばらく本棚に立てかけていたのだが、ある日気がついた。
子供の頃の原風景なのだ。
幼いころ福岡の国鉄筑肥線のすぐ脇に住んでいた。単線で便数も多くなく、黒く汚れた枕木と長く続く線路を渡り、親も知らない小山に登り遊んでいた。そこで振り返った赤土の風景に似ているのだ。訪ねるたびに楽しみにしているのだがいまだ出会えてはいない。
ゴッホの「ヴィゲラ運河にかかるグレーズ橋」があざやかなプロバンスの乾いた光を切り取っている。ポール・ゴーガン「小屋の前の犬、タヒチ」、所蔵作品のピカソ青の時代「酒場の二人の女」。そして、パリの古めいた建物の懐かしさを描いた佐伯祐三「アンドレ・ドリュード・シャトー」が心に残っている。
ポーラ美術館にもう一つの楽しみがある。
美術館から雑木林へ遊歩道がのびている。ここは季節ごとに変わる空気が心地いい。
木々の枝には枯葉がいくつかしがみ付くばかりで、日差しが透き通っている。遊歩道の枕木に寒々と影が長々と伸びている。
小さなすみれの紫だけが春のさきがけだった。
渓谷への無人の歩道には
冬枯れた竹林がざわめいていた。
ポーラ美術館
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<スタッフ後記>
「ああ、いいなあ」と思った景色が、実は幼い頃に訪れた場所と同じような景色だと気付いたとき、不思議な縁を感じずにはいられません。
自分でも気付かないうちに、自分を形作っている情景なのでしょうか。