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箱根の向こう(終) 辻堂海岸<事務所代表 森のfacebookより転載>

Date:2019/05/09

※事務所代表 森のfacebookより転

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雑木林の影もいつのまにか長くなり、丘の向こうに沈みはじめた。

戻り道は、いつも塔ノ沢から箱根湯本をぬけて小田原厚木道路から東名に乗る。

道は早川に沿い下ってゆく。

枝を大きく伸ばした山桜がいくつも道を包み、春の色が走り去る。

道は塔ノ沢から箱根湯本の温泉街をぬけていく。混みあう道も季節が早いのか、滞ることもなく新しい道へ出た。

湘南という文字が見えた。

そう、海だ。

このまま真直ぐ海を見て帰ろうと決めた。

湘南ラインは御殿場から大磯、茅ケ崎の松林を駆け抜ける。

海岸沿いの道に、陰り始めた日差しが柔らかい。

辻堂海岸に車を止め、見知らぬ陸橋を渡り砂浜に出た。

海風に帽子が遥かに飛んだ。

砂浜の南西に烏帽子岩が遠く波にかすみ、東に江ノ島が近い。その向こうが鎌倉だ。

太平洋から吹き上がる風が唸りひびき続けている。荒れる海に波待ちのサーファーの影もない。

 

前世と来世のはざまの、

刻の砂が尽きるなど考えもしなかった頃、

冬の海を二人で歩いた。

とどろき続ける海風は、腕をつかむ声をかき消した。

ただ、私は大海原からの風に立ち向かうことに夢中だった。

数年後、雑踏が消えた夏の午後、冷えた缶コーヒーを手にさざめく砂浜を

一人歩いた。

 

海風に飛ぶ砂塵が、夕陽を滲ませながら輝いている。

 

去年葉桜の春、心停止し彼岸の際を歩いた。だが、幸運にも刻の砂はつきず日常へと舞い戻った。

そして今日は、日常の脇道をたどり遠くの記憶へめぐり合えた。

いまだ碧が深い海に、帽子を握りしめて立ち尽くしていた。

 

刻の砂が尽きるまで、道は半ばなのだと決めている。

江ノ島を越え第三京浜に乗れば日暮れまでには帰れるだろう。

 

‐終‐

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<スタッフ後記>

鎌倉近辺を訪れるたびに湘南の浜辺を歩くのですが、サーファーや修学旅行の学生さん、それから散歩に訪れた老夫婦など、様々な人が自由に過ごしているのを見るのもおもしろいものです。

波の音というのは、とても落ち着きますよね。