東山魁夷・雑感(3)<事務所代表 森のfacebookより転載>
※事務所代表 森のfacebookより転載
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その夜、本棚の奥から「わが遍歴の山河」を取り出した。
当時すでに古本であり、さらに45年ほど私の転居先の本棚に座り続けていた。
それでも黄ばんだ本を開くことはなかった。
展示会の余韻に買い込んできた画文全集を脇に置き半世紀ぶりに表紙を開いた。
冒頭のページに作品「晩照」の写真がパラフィンの向こうに張り付けてある。
巻頭の作品「晩照」に当時の事を思い出した。
夕陽がすでに落ち、川の向こうの山肌は闇に沈もうとしている。
だが、その山頂の向こうには残照がいまだ残っている。
その微かに残る残照に向かい歩いて行くのだ。
青春の闇を進む不安と未来への希望が混沌としていた時代だった。
後日、再刊した文芸部誌「筑水・17号」の巻頭句は、この「晩照」から生まれたのだった。
拙いが、私にとって忘れられぬ巻頭句である。
求めて已まぬ心
荷を負った道
残照かすかな尾根の
むこふ
土のぬくみ夢見て
-続く-
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<スタッフ後記>
記憶を呼び起こす一冊をどれだけ手元に残しておけるか。
森の文章を読んでいるとそう思うことがよくあります。