西日本新聞連載エッセイ『たかが還暦、されど還暦』第26回 【オフィシャルサイト限定コンテンツ】
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■ 第26回 このままでは…
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結婚すると報告すると、両親も兄たちもこぞって反対した。
「わりゃ、何ばしげ東京に行ったつか」
そう言われれば返す言葉もない。それでも決めたことは後に引かない性分なので、反対されても構わないと開き直っていた。
深刻になりかけた亀裂を修復してくれたのは、義姉さんだった。
「そん人ば連れて、一回帰って来んね」
アドバイスに従い、彼女の親の許しを得て連れて帰った。黒木でタクシーに乗って大渕まで行き、剣持川ぞいの曲がりくねった夜の山道を延々と走る。
「あの時は、もう生きて帰れないと思ったわ」
今でもそんな冗談を言うほど、妻にとっては衝撃的な田舎だった。
迎える両親も緊張して待っていただろうが、幸い彼女を気に入ってくれた。
「どげな人じゃろかと思よったばってん、こっちん人といっちょん変わらんけん安心した」
夜、皆が寝静まってから、母は叔母に小声で電話していた。寝られないままその言葉を聞き、帰ってきて良かったと義姉の計らいに感謝したものである。
翌年には長男が、その翌年には長女が生まれ、親の苦労と喜びを身をもって知るようになった。
図書館司書の資格も取り、一生図書館にいられる地位を手に入れることができた。
何不自由ない幸せな暮らしだが、私は次第にこのままでは駄目だという切迫感にさいなまれるようになった。
同人誌に加わり、新聞や雑誌の同人雑誌評に取り上げられるレベルの作品を書いてはいたが、仕事と掛け持ちではどうしてもプロの壁を破れない。
このあたりで仕事を辞め、背水の陣で修業しなければ、小説好きの公務員で終わってしまうと焦り始めたのだった。
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西日本新聞「たかが還暦、されど還暦」2015年2月17日付
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