大原路(2)三千院<事務所代表 森のfacebookより転載>
※事務所代表 森のfacebookより転載
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寂光院から一人の田舎道を下り三千院への参道へ向かう。
山道は小川を脇にかかえ細くうねり登っていく。見上げ物、名物の漬物の出店が道脇に座り、行く人を見送るでもなく時が流れている。
この道はあの時と変わらない。
人は私の手を引き、鳥のように歌い木漏れ日に笑っていた。
参道を登り三千院の石塔に至れば、門前の茶店が並ぶ玉砂利の道が広がる。
踏みゆく音に山門への石段が、微笑むような気がしていた。
ここへは何度も足を運んだ。
桜の頃、それも葉桜の緑が若く紫陽花も色に染まり始め、春の残り香が掌にすくえた若い時代にみた輝く空の庭。
焼けるような日差しに木々の緑は深く、庭先の池が照り返しに揺れている。スーツとアタッシュケースを紅い毛氈に放り出し、ネクタイを緩めハンカチで汗をぬぐった盛夏の日。
紅葉の色が苔の上に幾重もかさなり、水面に浮かぶ葉は秋風に舞っていた。紅い毛氈に二つ並んだ薄茶が冷める事さえ忘れ庭の移ろいを観ていた晩秋の夕暮れ。
早暁の京都の宿、雪が覆う屋根が並んでいた。幾重にも纏った衣を脱ぎ捨て、紅葉と共に置き忘れた時を探しに向かった。山里の雪は深く、一人歩く境内は冬の青白い陰と、むかし別れた紅葉の紅が足跡の向こうに薄く滲んでいた。
何時の頃からか、苔の庭から祖神が顔を出している。
笑みの色に向かい手を合わせる。
金色堂へ向かう石段を見上げたが、振り返るほどの時は残されていない。
だが、緑は陽に映えて残照にいまだ至らず。
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<スタッフ後記>
庭園に置かれている石をよく見ると、顔の形をしていて驚きました。
お地蔵さんの親戚なのでしょうか。
戯れに置かれているように感じる石にも、何か明確な意味付けがあるのだと思います。