西日本新聞連載エッセイ『たかが還暦、されど還暦』第14回 【オフィシャルサイト限定コンテンツ】
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■ 第14回 弁護士になろう
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高専では勉強よりラグビーに熱中した。
中学時代にバスケットをやっていたのでボールのハンドリングが良く、足もそこそこ速かったので、二年生から一軍のスタンドオフに起用してもらった。
スクラムやタックルなどで体をぶつけ合う激しさや、相手をぶっちぎってトライした時の爽快感、そしてチームのみんなとの一体感が心地良く、ラグビーをしに高専に入ったような状態になってしまった。
ところが私には有頂天になりやすい欠点がある。
幼い頃から道化によって人とつながろうとしてきたのがいけなかったのか、人が喜んでくれると嬉しくなって、つい軽はずみなことをしてしまう。
そんな性格が軽率なプレーという形で出てしまい、大きな怪我をしてラグビーを続けられなくなった。その頃には勉強にも興味を失っていった。
反骨精神から勉強し、なりゆきで高専に入っていたので、エンジニアになるという確たる目標があったわけではない。
しかも怪我で入院していた間に授業にも置いてゆかれ、すっかり落ちこぼれになってしまった。
このまま卒業して企業に就職することにも希望が持てなくなり、おまけに失恋までしちまって、まったくの八方塞がりになった。
これではいかんと思いながらも、どうしていいか分からない。
そこで一年間休学して、自分を見つめ直すことにした。
三年を終えて四年に進級する前で、休学中には独学で司法試験の一次試験を受けることにした。これは本試験の受験資格を得るための試験で、大学二年までの教養課程を習得していると認定してもらえる。
これにパスしたなら高専を辞め、本試験を受けて弁護士になろう。
そして世の中の役に立つ仕事がしたい、漠然と考えていた。
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西日本新聞「たかが還暦、されど還暦」2015年1月29日付
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