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金沢再訪、初夏に空高く(完) <事務所代表 森のfacebookより転載>

Date:2018/05/27

※事務所代表 森のfacebookより転載

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金沢再訪、初夏に空高く(完)

汗ばむ日差しに、ジャケットを抱えようやく白馬駅にたどり着いた。

カラフルなトレッキング帰りの人々が溢れている。おおよそ中高年、更には女性が多いのには驚く。

駅舎の待合室の騒めきも、列車の到着を告げるアナウンスに改札へ移動する。

「特急あずさ26号」新宿行へ乗車し、窓越しの白馬に別れを告げた。

今日の空振りも旅の風景である。

 

行き違い勘違い、更に思い違いは毎度の事だ。それを楽しむ齢を経てきたのだし、後悔は何も生まず苛むだけである。

暫く続いた乗客の会話も、まどろみの褥に潜りこんでゆく。列車と線路とのリズミカルな走行音が響いている。

まだ日は高く、見え隠れする尾根は雪に覆われている。午睡の夢に引き込まれ車窓にもたれていた。

幾つかの駅を過ぎ、唐突に「小淵沢」というアナウンスが私の心に響いた。

まだ、国鉄と呼ばれた時代だったことは覚えている。

九州から上京しまだ数年しかたたない頃、私の掌に居た詩人たちは、大都会の喧騒に行く先を見失っていた。日々の仕事に追われ、就寝前の読書も机に伏して成すすべもなかった。

土曜日午後からの休日、神田の古書街を歩き一杯の珈琲に岩波文庫を抱えて喫茶店を占拠した。

ただ、体が熱かった。

 

薄暗い会社の寮へ戻る気にもならず彷徨い歩いた。

何かの本で読んだ、一筆書きの旅を試してみる事にした。

深夜12時、新宿駅発急行で大月駅へ向かう。終電には赤ら顔のサラリーマンでにぎわうが、早朝の大月には乗客は殆どいない。寒々としたホームで、白い息を両手で抱え込む。

普通列車で小淵沢へ向かい、無人駅に立ち寄りホームのベンチで朝食にアンパンをかじる。誰もいない駅に朝日が昇り、昨日の都会の煤を落としてくれた。

小淵沢から小諸へ抜けて、高崎から日暮れの上野へ向かう。そして、日常の駅へたどり着く。

体が発熱し、座っていることができなくなる。若さゆえか、何かへの渇望だったのか。

そんな旅を何度かたどり、何時か都会の喧騒に慣れていった。

「小淵沢」という駅名が、記憶の中に焼き付いていることに気が付いた。

あの頃の焼け付く思いが新宿駅を告げるまで車窓の向こうに続いていた。

見えるものだけが旅の景色ではない。

見たものだけが風景ではないのだと今更ながら気がついた。

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<スタッフ後記>

昔を思い出す駅、ありますよね。

普段は気が付かないが、ふとしたタイミングで思い出す。

旅と駅は切っても切り離せないものです。