出会い 祈織inori
※事務所代表 森のfacebookより転載
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11月10日
午後、圓光寺の坂を下りながら今回の京都での楽しみに思いをはせ、京都文化博物館へ向かった。
彼女との出会いは、友人が受賞した五年前の直木賞パーティーだったのかもしれない。
会場は出版関係者などで溢れかえっていた。
名刺交換の列が数十人と続き、最後にふくよかに笑みをたたえた高橋一清さんが立たれていた。
この方が文藝春秋社をこえて伝説の編集者と理解するまで、数年後にご連絡いただくまで知ることはなかった。
自筆のお手紙にパーティーでのお話しや、安部の作品に着目していた経緯と共に島根県での文学啓蒙活動の一環として、益田市図書館文学講座と松江文学学校での講義依頼であった。
色々経緯もありお受けする事にしたのは、伝説の編集者高橋さんと一度お会いしたいと云うのが最大の理由だった。
お会いして語ることは多くはない。ただ、文学を心の底から愛されていると感じるばかりであった。
以後、お会いするたびに懐かしさを覚え、先生と呼ばずにはいられない師となっている。
松江での夕食をご一緒させていただいた折に、厚かましくも印象に残る作品はと問うてみた。
多数の作品を手掛けられた中でも印象深いのは芝木好子「隅田川慕情」とお聞きした。
早速手にし読み上げた。
800年前の平家納経・厳島組紐の復元に心血を注ぐ女性の生き様と主人公をめぐる人々の葛藤を描いた傑作だった。
あとがきには編集者高橋一清と刻んであった。
女性作家の作品をあまり読んではいないし、芝木好子氏なる作家も知らなかった。
だが、幾つか作品を読み進めるうちに生きるという命題の側には、必ず信じる仕事と成し遂げたい焦がれがあった。
作品の一つに「群青の湖」と題した作品がある。工芸や染色や織物といった伝統工芸に自らの道を見つけた女性が、不器用な生き方に躓きながら自分に正直に生きてゆく。
近江八幡を中心として、湖東の深碧の湖が印象的であった。
傍から見る路傍の人生はありきたりとも見える。
だが、その歩みには語れぬほどの痛みと苦魂、そして喜びがあるものだ。
作品の装丁は手織りの裂で纏われ、躓き割かれた瘤を景色とし手に触れるざらつきに読了したあとの陰影を深くしている。
作品を手にした心の襞が、時に刻まれた掌の中で少しの懐かしさに変わるようだった。
装丁作品は「志村ふくみさん」の作品とあった。編集者や作品にかかわった人々の思いが伝わる書籍に仕上がっている。
写真でご一緒した女性は「渡邊 紗彌加さん」である。
フェイスブックでお見かけし彼女のイベントへ参観させていただいた。
彼女の投稿への思いが私を捉え、日々の精進が聞こえてくる。
会場の作品を見学させていただいが、浅学の身に織や染などの個々を評論する見識など持たない。
ただ、懐かしさの香りが漂う作品であったように思う。
紗彌加さんが機を前に祈るように織り続ける手先と、一刺し一刺し進める刺繍への視線が苦行とも見える歓喜の姿に喝采を唱えたい。
恥ずかしくもあり、たかだか半時ご一緒しただけではあったが、凛とした姿に自らの生き方を求め続ける強さと、まことに晴れやかな笑顔をたたえた女性であった。
次回の催事にご縁がかなえば再訪したいと思っている。
願がわくば、圓光寺の板縁に座り晴れやかな着物姿の女性と季節の移ろいの中に漂ってみたいものだ。
老婆心ながら、公開のナンパ!などでは決してないことをお含みおきいただければ幸いである。^^
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【スタッフ後記】
いや、これは公開ナンパなのでは……。なんてことは口が裂けても言えません。
芸術に携わっていると、様々な方とのつながりが出来ていくものです。
そのつながりが、思わぬ新たな視点や気づきを与えてくれるのでしょう。