「吉田博展・4」
※事務所代表 森のfacebookより転載
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「吉田博展・4」
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
本当にこの画家には驚かされる。明治32年(1899年)渡米し、中川八郎と共にデトロイト美術館で、翌1900年にはボストン美術館で展示会を開催し、その後そのまま渡欧したという。
開国してまだ間もない時代、信じられないほどの行動力だ。この芸術家の才能に世界が驚嘆したに違いない。
アメリカ「ヨセミテ渓谷」立ちはだかる断崖と巨大な大杉がで大きな時間の流れと共に大河に写り込んでいる。
「グランドキャニオン」乾いた空気が遥かに霞んで地の果てがそこにある。
ヨーロッパ「マッターホルン山」真っ白に氷結したマッターホルンの峰々を凍えた風が流れ、教会の足元の温みが心地よい。
「ベニスの運河」川面が揺れて歴史を感じる建物の陰りが懐かしさを感じさせる。
「スフインクス」「アフガニスタンのキャラバン」砂漠とシルクロードの果て、乾ききった霞む空が旅情を呼び起す。
インドと東南アジア「フワテープル・シクリ」強烈な日差しから奥まった建物の中で悠久の時間を過ごす二人の男。
表から聞こえる喧騒が遥か遠くに聞こえている。
「ベナレスのガット」寺院の赤い壁と人々の様々な衣装が、ガンジスの川面に写り緩やかに揺蕩っている。
「マデュラの神殿」真昼の光を背にして巨大な像の間を桃色の衣装の女性が奥へ向かって歩いている。
まさに神秘へ向かう荘厳さをも漂わせている。
ここに紹介したい作品が他にもいくつもある。
油彩は深みのある作品たちがカンバスに広がっている。
戦時画家としての作品も構図の面白さなど見るべき作品も多い。
まして、吉田が行く先々で書き溜めたスケッチノートはどれも興味深く飽きることがなかった。
そして、鑑賞に疲れ果て最後にたどり着いたベンチの前に印象派三人の作品が常設展示されている。
右にセザンヌ「りんごとナプキン」深いブルーが作品を覆い哲学的な冷静さを漂わせている。
左にはゴーギャン「アリスカンの並木道」晩秋の町は、紅葉と深い緑とを湿った赤土の並木道の佇まいに沈んでいる。
中央にヴィンセント・ヴァン・ゴッホ「ひまわり」プロバンスの初夏の光そのままに輝いている。
三つの作品の前に座りほとんど同時代を駆け抜けたすばらしい個性を見上げていた。
私は展示会で何時も一度全体を通して内覧し、もう一度個々の作品を振り返る事にしている。
疲れ果て二度目の巨人三作品の前に座り込んだ。
足が腫れて暫くふくらはぎを揉みながら喧騒の中に浸かっていた。
ようやく帰りかけて作品を振りかえれば、あの作品をもう一度と足が戻っていった。
結局、閉館間近まで42階の高層ビル会場から離れられなかった。
今月27日まで開催されている。もう一度参観するつもりである。
生誕140年「吉田博展」山と水の風景
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【スタッフ後記】
まだまだ語り足りないでしょうが、吉田博氏を語ることで4回分の記事量になりました。
記事を読んでいく中で、この世には芸術家と作品が星の数ほど存在するが
生きている間にどれだけ自分が良いと思えるものに出会えるのか。と、ふと考えてしまいました。