「吉田博展・3」
※事務所代表 森のfacebookより転載
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「吉田博展・3」
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
先ず驚かされたのが「渓流」の圧倒的な表現力。
渓流の水が切れるような冷たさと、透明な碧の深みに川魚が泳ぎ、絶えることなく水音が響いている。
これが木版画なのか!暫く作品の前に立ちすくんでしまった。
図録の表紙にもなっている「帆船」の海の光が美しい。
しかも同じ版木で終日(朝・午前・午後・霧・夕・夜)の陰影を見事に捉え表現している。
それぞれの時が新たな物語を語っている。
「劒山」山に深く分け入った空と山々の陰が何とも美しい。
そして、この版木も(朝・午前・午後・夜)すり分けテントから漏れる煙が背景の明暗に解け込んでいる。
版画にこんな技法があり、描かれた世界がそれぞれに時を持つとは信じられなかった。
「雲井桜」薄桃色の枝垂桜が霞むように香りの中にとけてゆきそうだ。
「神楽坂通・雨後の夜」通り雨後の夕暮れ、道が濡れたまま灯りを映し穏やかな時間が流れている。
「農家」吉田博最後の木版画 薄暗い農家の土間に立ち働く二人の女。
竈からから立ち上る煙に目を細めてしまいそうだ。
幼いころ田舎の祖母の竈を火吹き竹で火を起したことを思い出す。
奥の開け放たれた開き戸の向こう、初夏の若い緑が眩しく広がっている。
作品に広がる光と空気と潤いは、空間そのものを包み込むように描く吉田博独特の世界なのだ。
吉田以外に同じ版木で、新たな時を空気を描き込むことなどできはすまい。
川瀬巴水は作品の中で対象に向かいエッジを立て切り取り、またデフォルメしながら存在やそのものを描く。明快な表現が明るさを伴って新たな木版画の時代を表現している。
やはり木版画は浮世絵から連なる日本の芸術として、この二人の作品は世界で評価されているのだろう。
そして、吉田は日本から世界へ飛び出し、近代の木版画として新たな世界をも創作した。
次回へ続く・・
生誕140年「吉田博展」山と水の風景
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【スタッフ後記】
記事内容が吉田博特集と呼べるくらいの熱量になってきていますね。
自分が今まで持っていた版画に対するイメージが一気に変わっていくのを感じます。
次回も楽しみです。