「夏の栞―中野重治をおくる」佐多稲子著<事務所代表 森のfacebookより転載>
※事務所代表 森のfacebookより転載
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「夏の栞―中野重治をおくる」佐多稲子著
作品を了読した。
FBで知り合ったT氏にご紹介いただいた作品である。
雑誌『驢馬』同人の、中野重治・堀辰雄などの出会いから創作活動を始め、昭和初期の激動の時代、そして戦後の混乱に生きた作家だ。
中野重治の死をきっかけに同じ時代を生きた友人達との交流と愛憎、そして濃密に生きた時間を振り返った作品だった。
昭和初期の激動の時代を生きた作家は、そう多くは知らない。だが、混迷の中に生きた作家の息遣いはどの時代の作家たちよりも濃密で深いと思う。
佐多氏の中野重治への恋にも似た友情は、中野の死によって自らの時間と共によみがえり、生き抜いた時代への郷愁を呼ぶ。
文学には年を経なければ理解できない作品がある。時を重ね心に沈んだ琴線にしか聞こえぬ音があるのだ。その微かな音が静かに響く作品だと思う。
佐多稲子氏の優しさと強さがこの作品に感情に流されない品格を与えている。
しばらく、佐多稲子の作品を追いかけてみたくなる秀作であった。
ご紹介いただいたT氏に御礼を申し上げたいと思う。
佐多稲子が引用した中野重治の詩が心に残っている。
次第に暮れて泊りの
船 灯をともすを見る
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<スタッフ後記>
恥ずかしながら、この作品の名前を聞くのは初めてでした。
若輩者の私には、深く理解するまでには至らないと思いますが、ぜひ、読んでみたいです。