箱根の向こう(1)明日、晴れたら<事務所代表 森のfacebookより転載>
※事務所代表 森のfacebookより転載
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今週は書斎に籠り、読みかけにしている幾つかの本を了読するつもりだった。ミノムシになりきり終日机に張り付いて過ごすのも悪くない。
朝から尾崎秀雄全集の読み飛ばしていた巻を読み返していた。この全集は著作年代順に構成されていて、昭和六年から七年ころ熱気に満ちた尾崎氏が三十才前後に著作した評論や著作である。この全集全体に終始してはいるのだが、浅学の身には何しろ難解なのだ。振り返り覚悟の紐解きである。
突如、大きな機械音がした。ドスン!ガタガタ・・近所で工事が始まったのだ。
工事は行きつ戻りつ、何度も文字を追うがあきらめた。
午後、工事も一息入れたか大人しくなったようだ。多少の妨害でも気にならない小説を読むことにした。船戸与一氏の絶筆となった長編「満州国演義・3群狼の舞」を取り出した。ようやく物語が動き出した頃、またしても果てしない機械音と振動が立ちあがった。何度か集中しようと努めたが視線は窓の外に向かう。仕方なくふて寝もできず散歩にでた。
陽も落ちて工事は翌日まで休止のようだ。夕食後、気分を変えて須賀敦子全集のエッセイを読むことにした。須賀氏のエッセイは、イタリアの街がまぶたに浮かび憧れと情緒が文脈に静かに流れている。須賀氏の祈りや情愛が心地よく心の内に響くのだ。落ち着かない一日ではあったが、日付が変わるころ須賀敦子全集(2)の「オリエント・エスクプレス」を読み終えた。
イタリア・ミラノの須賀氏が父の望みでオリエント急行の思い出のコーヒーカップと寝台列車の模型を日本の病室へ届け、翌日父が亡くなるという作品である。
須賀氏の父が若いころヨーロッパをオリエント急行で旅した思い出を大事に温めている気持ちが私に響いていた。私がヨーロッパを旅した時、残念ながら乗車できなかった。
だが、わかるのだ。解き放された自由という甘美な時間がながれ、見知らぬ異国の香りに両手を高く振り上げる若さの輝きがまぶたに浮かんでいるのだ。
ふと、気がついた。深い藍に金のラインが走るオリエント急行が箱根にある。
以前、ルネ・ラリック美術館を訪れ乗車したのだ。
調べるとベル・エポックの花「サラ・ベルナール展」を開催している。
日常から脇道へ一歩足を踏み出すときめきが、私は好きだ。
朝、晴れていたら行こう。
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<スタッフ後記>
ポカポカする春の日差し中、読む本は、
どんどん進んで有意義な時間が過ごせますよね。