ルドン・グランブーケ <事務所代表 森のfacebookより転載>
※事務所代表 森のfacebookより転載
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4月4日
「ルドン-秘密の花園展」三菱一号館美術館
「華で酔う」それも絵画の花束に陶然として酩酊の中に漂った。
先年、醍醐寺の桜吹雪に心が舞い上がり、甘美な香りに包まれ心が溶けていった。
生命の宴の中に浸る心地よさに我を忘れた。命の輝きに酔ったのだ。
「美」は心を震わせる体験と共に育てられていくように思う。
だが、その絵の前では心が揮発し微熱が体を覆う。
そう、恋に落ちる瞬間の戸惑いと高揚なのだ。
「グラン・ブーケ」その絵の前では思考や時間が止まり、そして開き加減の唇から声さえ上がらない。
暫く立ち尽くし、展示室の右脇のベンチに座り込んだ。
視野は絵画の引き付けられたまま、胸のポケットの奥深くに仕舞い込んだ思い出がよみがえっていた。
遠い昔、イタリアのアッシジの大晦日、サンフランチェスコ教会側のオーベルジュへ宿泊した。
その日ばかりは宿泊者も地元の方々と新年のパーティーでカウントダウンを待つことになった。
カウントダウンと共にシャンパンが鳴り会場が高揚する。
テンポの良い音楽につられ会場にはダンスの輪が広がっていった。
テーブルに一人座っていると、赤ら顔の叔父さんが若い女性を連れてきて、一緒に踊れと身振りした。
中世の衣装に身を包みブロンドの髪が綺麗な少女が、踊れもしない私の手を取って跳ねるように回り始めた。
言葉など要らないパーティーが深夜まで続いた。
寝付かれず、中庭のテーブルに座り早朝のアッシジの丘から霞んだ大地を見下ろしていた。
ホテルに人影もなく鳥の声もない。
突然、霧に霞んだオリーブ畑と壊れかけた壁の間から、白い帽子が浮かび出て人影がこちらに向かってきた。
輝くような青の、そうラピスラズリの輝く青のドレスを纏い、籠に積んだばかりの野菜を提げた女性が跳ねるように登ってくる。
私に気づいたのか、帽子のつばをもって顔を向けた。暖かな赤い唇が少し笑い、濃い眉と瞳がまっすぐ私を見上げた。
「グラン・ブーケ」の輝きと愛おしさが、アッシジの朝を呼び起こした。
私が持っていた「ルドン」は、シュールレアリスムの詩人マラルメやボドレールの詩集の挿絵だった。
異界の花々や首が実る植物の絵が浮かんでいた。
地獄の底で蠢く詩人たちの叫びを描き出した画家だと思っていた。
暫く時を置き、出会いを振りかえり少しわかってきたと思う。
表裏なのだ。
「グラン・ブーケ」の蠱惑の輝きと首を実らせる植物や一つ目の植物、影の中で祈る少女は一体なのだ。
だからこそ魅かれ、落ちていく。
先回の展示会の時間は、その花束に捧げた。
そして、もう一度その女性に会いに行かずにはいられまい。
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【スタッフ後記】
森が精力的に美術館や展覧会へ足を運ぶので
徐々にですが、作品や作家、会場についての知識がついてきた気がします。
そんな中最近思うのは、どの展示もそうですがウェブサイトの作り込みがすごい。という事です。