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ルドン・グランブーケ <事務所代表 森のfacebookより転載>

Date:2018/04/06

※事務所代表 森のfacebookより転載

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4月4日 

「ルドン-秘密の花園展」三菱一号館美術館

 

「華で酔う」それも絵画の花束に陶然として酩酊の中に漂った。

先年、醍醐寺の桜吹雪に心が舞い上がり、甘美な香りに包まれ心が溶けていった。

生命の宴の中に浸る心地よさに我を忘れた。命の輝きに酔ったのだ。

「美」は心を震わせる体験と共に育てられていくように思う。

 

だが、その絵の前では心が揮発し微熱が体を覆う。

そう、恋に落ちる瞬間の戸惑いと高揚なのだ。

「グラン・ブーケ」その絵の前では思考や時間が止まり、そして開き加減の唇から声さえ上がらない。

暫く立ち尽くし、展示室の右脇のベンチに座り込んだ。

視野は絵画の引き付けられたまま、胸のポケットの奥深くに仕舞い込んだ思い出がよみがえっていた。

 

遠い昔、イタリアのアッシジの大晦日、サンフランチェスコ教会側のオーベルジュへ宿泊した。

その日ばかりは宿泊者も地元の方々と新年のパーティーでカウントダウンを待つことになった。

カウントダウンと共にシャンパンが鳴り会場が高揚する。

テンポの良い音楽につられ会場にはダンスの輪が広がっていった。

テーブルに一人座っていると、赤ら顔の叔父さんが若い女性を連れてきて、一緒に踊れと身振りした。

中世の衣装に身を包みブロンドの髪が綺麗な少女が、踊れもしない私の手を取って跳ねるように回り始めた。

 

言葉など要らないパーティーが深夜まで続いた。

寝付かれず、中庭のテーブルに座り早朝のアッシジの丘から霞んだ大地を見下ろしていた。

ホテルに人影もなく鳥の声もない。

突然、霧に霞んだオリーブ畑と壊れかけた壁の間から、白い帽子が浮かび出て人影がこちらに向かってきた。

輝くような青の、そうラピスラズリの輝く青のドレスを纏い、籠に積んだばかりの野菜を提げた女性が跳ねるように登ってくる。

私に気づいたのか、帽子のつばをもって顔を向けた。暖かな赤い唇が少し笑い、濃い眉と瞳がまっすぐ私を見上げた。

 

「グラン・ブーケ」の輝きと愛おしさが、アッシジの朝を呼び起こした。

私が持っていた「ルドン」は、シュールレアリスムの詩人マラルメやボドレールの詩集の挿絵だった。

異界の花々や首が実る植物の絵が浮かんでいた。

地獄の底で蠢く詩人たちの叫びを描き出した画家だと思っていた。

暫く時を置き、出会いを振りかえり少しわかってきたと思う。

表裏なのだ。

「グラン・ブーケ」の蠱惑の輝きと首を実らせる植物や一つ目の植物、影の中で祈る少女は一体なのだ。

だからこそ魅かれ、落ちていく。

先回の展示会の時間は、その花束に捧げた。

そして、もう一度その女性に会いに行かずにはいられまい。

 

ルドン-秘密の花園展

 

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【スタッフ後記】

森が精力的に美術館や展覧会へ足を運ぶので

徐々にですが、作品や作家、会場についての知識がついてきた気がします。

そんな中最近思うのは、どの展示もそうですがウェブサイトの作り込みがすごい。という事です。