庭園美術館(1)<事務所代表 森のfacebookより転載>
※事務所代表 森のfacebookより転載
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少し前になるが、白金の庭園美術館へ向かった。
道は首都高速の下を走り広尾へ抜けるトンネルがあり、薄暗い照明の向こうにあらたに空が広がり都心を感じさせる町並みがあらわれる。その道の脇に庭園美術館はある。
「岡上淑子展・沈黙の奇蹟」が開催されていた。
今世紀初頭のシュールレアリスムから、敗戦後日本に唐突に生まれたフォトコラージュ作品に引かれていた。異次元・異空間を思わせる作品は、戦後の混沌退廃の時代を切り取っているようにも感じている。
だが、最大の目的は天使に会いに行くことだった。
正面玄関のドアは、全面に天使のガラスレリーフが飾られている。フランスのガラス工芸家ルネ・ラリックの作品である。
アールヌーヴォーからアール・デコにいたる近代のアンニュイを漂わせる時代に生まれた独特の感性を漂わせている作品である。
ただ美しいとも清楚とも違う、ほのかに心にぬくもりを感じさせる天使の姿が光の中に浮かんでいる。
旧朝香宮邸はアール・デコ様式を体現した美術館として開園され、昨年あらたに改装された。三十年前に訪れた印象とは大きく変わり、新館やレストランが併設された美術館として生まれ変わっていた。
本館内装は何も変わらない。変えようがないのだ。
壁や床、暖炉、シャンデリアやドアノブに至るまで統一されたアール・デコ様式の内装は一切の修正を許さない。
朝香宮ご夫妻の徹底したこだわりの粋がそこにある。
部屋ごとに展示された岡上淑子氏の作品を追いながら、部屋ごとに設えられた内装や小物、金具に至るまで感嘆せざるを得なかった。
この朝香宮邸の竣工前後に、父は生まれ夢をいだき満州へ渡った。そして、シベリアへ抑留されることになる。
生きるということが過酷な時代の向こう側に、退廃の影を漂わせる芸術が生まれる。貧困と飽食の表裏を思わざるをえない。
アールヌーヴォーやアール・デコの背後に、いつも寂寥を覚えるのは私自身の懺悔なのかもしれない。
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<スタッフ後記>
すごくかわいくて、クリーム色が綺麗な建物ですね。
内部装飾の丸い縁取りもすごく素敵です。