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Date:2018/01/28

※事務所代表 森のfacebookより転載

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1月22日 今日は関東に大雪が降っている。予定していた都内での映画鑑賞を延期した。

その雪は昼間から大粒の牡丹雪が柔らかに舞っている。関東の雪ではまれな雪である。

相棒の定期検査を受けるため、雪が積もる前にと急ぎ病院へ向かい問題もなく早めに帰宅の道へ戻ることができた。若くもない相棒は、雪を気にすることもなくコートの中に潜り込んでいる。

雪道を歩きながら、遠い昔こんな雪を見た風景を思い出した。

まだJRという言葉が馴染めず国鉄という言葉が口に出てしまう時代だった。

北海道の札幌へ仕事の名目で立ち寄り、仕事を早めに切り上げて初めて小樽へ向かった。

小樽へ向かう列車へ飛び乗り、ドアの近くで日本海を眺めていた。雪一つなかった札幌から小さな岬を曲がった途端、雪が線路の周辺にあふれだした。芒に木々に遥か山々に雪が重石のように座っているようだ。雪をほとんど知らない地方から来た異邦人には、雪の重さなど知る由もない。目にする雪の違いは木々が傾ぐ姿に歴然と現れていた。各駅列車が「銭函」という駅に停まるが誰もドアを開けようとはしない。陽は西に傾き始め、影が長くなるころ小樽駅へ着く。

予約していた銀行跡を改装したホテルへ鞄を預けると、粉雪が降り始めた運河を目指した。

やはり観光地だ、寄り添った二人連れが溢れて座るベンチも空いてはない。

運河沿いを散策し運河の端近くで上の道へ昇れば、冷え切った体が空腹を訴えている。どこかで読んだ観光誌にビーフシチューが美味しいと書いていたのを覚えていた。窓際の席でバケットを齧りながら運河を見下ろしていると若の女性の話が聞こえた。以前、テレビCMで流れていた「列車が崖下を走り去る風景」のロケ場所のバーがこの近くに在るらしいと話している。そのテレビ広告は私も知っていた。近くならぜひ行ってみたいと思い、振り返って聞いてみたがやはり場所は知らないという。

ガラス工房などの観光は明日にして、ホテルに早々に戻る事にした。

ホテルへ戻ると試しにとコンシェルジュへ聞いてみた。銭函駅の近くにあり、「ユーラシア404」と云う店だと教えてくれた。さっそく予約していただき、ホテル前のタクシーで急ぎ向かった。

コンシェルジュの話では、夕日が消えかかる頃が一番の時間帯だと教えてくれた。

陽はまだ少し残っていた。

到着したコンクリートの階段を下りると、一面ガラス張りの窓が広がり石狩湾が広がっていた。

テーブルなど無く毛足の長い絨毯が前面に引かれ靴下のまま壁にもたれるように座る。テーブル代わりの礎石が壁から伸びて、キャンドルの側にバーボングラスをウエイターが置いて行った。

音もないガラスの向こう、窓下からライトアップした光が木々と闇に向かう空を映している。

切り立った崖が石狩湾へ落ち込み、かすかに残る残照に黒々と揺蕩う波の光が揺れていた。

店内には私と奥の一組のカップルばかりであった。

暫くして粉雪が舞い始めライトに浮き上がって来たころ、函館本線の列車が暗い崖と海のはざまに前照灯を真直ぐに向け客車の灯りを従え足元を走り抜けていった。

三杯目のグラスを頼んだ頃、奥から男性客が私の前を歩いて行った。

グラスを開けても男性客は戻ってこなかった。足を伸ばした女性の手には空のグラスが乗っていた。

不意に目の前が揺れた。音もない雪が、闇に沈む海から噴き上がり牡丹雪へ変わった。大きな窓ガラスの崖下から舞いあがり空に向かって行く。ただ、美しいと思っていた。

足もとを札幌行きの列車が闇の向こうへ走っていった。最終列車だとウエイターが閉店を告げた。

振りむけば女性はキャンドルの側に空のグラスだけを残し消えていた。

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【スタッフ後記】

私は出身が札幌なのですが、数年ぶりに感じた冬の厳しい寒さでした。

東京は常々北国とは種類の違う寒さだと感じていましたが、そこに雪が加わると、もう手に負えません。

春が待ち遠しいです。